「……あいつから連絡来ましたよ」

 

 

「何て言ってるの?」

 

 

「……支援求む、だそうです」

 

 

「そう、か……」

 

 

「行くんですよね……?」

 

 

「そうだね……オレ達は、そのために居るんだよ。何たって……“良い子の味方”、だからな!」

 

 

 

 


Re/call 〜Emerald

  捌話 『咎人達の狂舞』

 

 

 

 

 

「悪いんですけどね……」

 

 

璃麻さんが、思い切り私の手首をぎゅぅっと握る。

痛い。しかし、動かそうとしても動かせない。其れほどまでに璃麻さんの腕力は強い、と言うことになる。

目の前には。異常、としか喩えようの無い中年男の容を纏った異形。これは人間ではない。これを人間と認めてはいけない。どこかで、私の本能がそう叫んでいた。璃麻さんは目の前の異形を睨み付けながら、手に持った、黒い銃の様な物をそれに向けた。

引き金のような物に人差し指を添える。

そして―――――

 

 

「人殺しを処理するのが僕のお仕事なんですよっ!!!」

 

 

――――。

 

 

何が起こったのか、分からなかったけれど。

 

 

爆裂音が、耳の鼓膜を破る勢いで聞こえた。同時、視界を真っ白に染め上げるほどの光量が、視覚を灼いた。

璃麻さんに握られた手が、思いきり引っ張られる。引き戻そうとしても、全く動かせない。引っ張られる。このままでは、バランスを崩して倒れてしまう。私は仕方なしに腕が引っ張られる方向へ、走り出した。視界は、赤と青と紫の彩が何度も何度も暗転するだけで、状況は何も解りやしない。

 

 

「そのまま跳べ!!」

 

 

数刻してから聞こえた、璃麻さんの勢い付いた声。

その直後、また爆裂音。ゼロコンマ1秒ほど遅れてから、ガラスの砕ける音が聞こえた。眸は閉じているから確信は出来ないけど、きっとまた眩しい閃光が炸裂していたのであろう。其れと、ガラスの砕けた音。これは一体なんだ?というか……跳んで下さいって言われても。そう思ったときには、時既に遅し。足はバネの様に床を蹴っていた。体とは意外と不便に出来ているものである。

何が起きているのか、解らない。

思考を、フルに回転させる。

 

 

仮定 壱:ここは2階である。

仮定 弐:ガラスの砕ける音が聞こえた。

仮定 参:この場においてガラスとは、窓にある。 

仮定 肆:走っている。

仮定 伍:“跳べ”

 

以上の仮定から算出すべき結論:――――

 

 

 

体育の時間。走り幅跳び、というものがあった気がする。私がもっとも得意とするものの一つだ。

走る→跳ぶ→すぐに着地する。私の中で、の話になるのだが。“走って跳ぶ”、という行程に必ず付いて来ていたこの“すぐに着地する”という法則(ロウ)は、絶対にして不可侵、神様にも消せないと信じていた。

なのに。

其れだと言うのに。

 

 

いつもは感じられない、この異常な浮遊感は何なのだ?

 

 

目を、そっと開ける。視界は、回復していた。

目の前に広がった町景色を見て、解ったことが一つ。

 

 

「っ!」

 

 

璃麻さんに片手を握られて、ハンバーガーショップの二階の割れた窓から思い切り跳んでいる――――私。

認めたくないものだな、という台詞はいつかどこかで流行っている名台詞らしいが(クラスの男子がそう言っていた気がする)。今まさに、この瞬間。その言葉を呟きたい。いや、叫びたい。そんなことを考えていた時。異変はまたも、不可解な方向から押し寄せてきた。

 

 

「無茶するわねっ、全く!!!」

 

 

……聞き覚えのある声。この声は……璃麻さんのパートナーであるダークドラモンのものだったろうか。

それが聞こえると同時、視界がいきなり真っ黒になる。眸は閉じていないから、光が遮られたか、視神経が死んだかの二つに絞られる。そう思っていたら、視界がほんの少しだけ彩を帯びた。僅かな隙間(?)から、青空が見える。何だか自分自身よく解らなかったが、回答としては、前者が正しい、ということになるのであろう。目の前を覆う“何か”によって、私の視界は遮られているのだ。

やや遅れて、丁度腰の部分に何か太く硬いものが強く巻きついた。痛くは無いものの、決して抜け出れそうにもない、そんな絶妙な力加減を加えられた状態。冷たさと、金属らしき感触が分かる。

 

 

「さんきゅーですぅシールズドラモン!」

 

 

璃麻さんが、喜んだような声をあげる。

“シールズドラモン”に関しては初耳だ。恐らく、ダークドラモンがBアグモンと同じように進化したか、退化したか。現時点の私のデジモンに関する知識から割り出せば、そのどちらかに絞られる。

そんなことを考えながら暫く、激しく上下に揺れるような感覚に身を委ねていたが。不意に、やけに軽い衝撃が伝わる。そして、腰に巻きついていたものが離れて、視界が完全に戻る。

見回す限りでは、何処かの建物の屋上のようだ。冷たいコンクリートの床に膝を突く。体中が軋むような感じだ。

 

 

「美音!」

 

 

ふと聞こえたのは、Bアグモンの声だった。

声のした方向を振り向くと、家に居る筈のBアグモンが私に凛とした顔を向けている。私が居ない間にBアグモンの身に何が起こったのかは分からない。しかし、ここでこうして出会えたのは幸いであろう。それに――――

 

 

「有難う御座います、シールズドラモン」

 

 

私は、この身をここまで運んでくれた張本人、シールズドラモンの方を振り向いて礼を言った。

シールズドラモン。デジヴァイスの機能により頭の中に流れ込んで来る情報によれば、成熟期。Bグレイモンと同じだ。そんなシールズドラモンの姿は、左右非対称な大きさのレンズが埋め込まれたゴーグルが特徴的な、人間で言う軍人のような格好をした恐竜型。私の腰に巻きついたのは、シールズドラモンの腕だったのだ。そのことが、今ならわかる。表情は読み取れないが、礼を言うとこくん、と小さく頷いた。璃麻さんが、その隣で不敵な笑みを浮かべながら――――その手に持った“銃”に、弾を詰めている。

銃。

先ほどの閃光や爆裂音の元凶でり、日本国では持つことを禁じられている筈の、あらゆる武術を一瞬で撃ち砕き滅ぼす、接近戦における最終手段。

 

 

「ふっふーん……驚きました?でも、僕のお仕事では常備及び発砲オッケーなんですよ、これ。まぁ幾つか条件が付いてくるからいくらか使用範囲は限定されちゃいますけど」

 

 

“因みに一発撃つだけでも人間の体の七割ぐらいは粉々に吹っ飛ばせますよ”、とまるで冗談でも言うかのような口調で付け足しながら、弾を詰め終えた銃を、こちらに向ける璃麻さん。しかしというか、やはり、向けただけで撃つ気はないのであろう。銃をすぐに降ろした。

璃麻さんが手に持つそれは、テレビドラマや洋画で大人が持っているものよりも、大分小型の銃だ。だが、あの異常なまでのマズル・フラッシュと爆裂音、そして……今現在、銃から漂う硝煙の匂いが、何となく普通の銃とは比にならない威力を秘めている、ということを感じさせる。

 

 

「さっきのが通常レベルのデジモンなら……幾らかは効いてる筈なんですけどねぇ……」

 

 

成程……そういうこと、か。

理解る。あれ程の威力なら、流石のデジモンでも手傷を負うはめになる、というわけか。この人のことがますます気になった。璃麻さん……否、坂崎璃麻。一体、何者なのだろう。

 

 

「美音、敵が来るぞ!」

 

 

Bアグモンの声で、私は身を引き締まらせる。

『アレ』が追って来た、と言うことであろう。油断は出来ない。出来る筈がない。やはり、体中に薄ら悪寒に似たものを感じる。ここまでは、今までの戦闘と同じなのだが。

唯一違うとすれば、其れに加えて更に迫るプレッシャー。威圧感、という名の脅威が、胸を苦しく締め付けるように感じる。意識をしっかり持たないと、我を失ってしまいそうだ。

 

 

すぅ、と目を閉じる。精神的安定化。武道においては最も肝心なものだ。お爺様から柔道や剣道、空手はずっと教えてもらってきているが、技を決めるには心が落ち着いていなければならない。そして、お爺様は言っていた。“戦において、心を乱した者に勝機は掴めない”、と。今が、その時だ。集中しなければならない。はぁ、ふぅ、と呼吸を繰り返すことで、幾らか気が軽くなった。

そして、目を開き――――

 

 

 

 

横から響く打撃音に、思わず振り向く。

 

 

 

 

「!!」

 

 

そこに居る筈の璃麻さんが、シールズドラモンが。

 

 

居ない。

 

 

そして、いつの間にか。本当に、いつの間にか。

 

 

 

 

「てめぇの血……俺によこせやぁ……」

 

 

前方に、あの異形が。

先ほどとは違って蝙蝠の様な翼を生やし獅子の様な牙を生やし大猩猩のような巨腕を持った、異形が。

いつの間にか、佇んでいた。

 

 

「げははっ……てめぇはこの【血陣巨鋼(ブラッディバーサーカー)】・ロワ様が……美味しく料理してやるぜぇ」

 

 

戦慄。恐怖。

私は多分、その言葉を聞いた一瞬だけ。

ココロが、砕け散っていたのかもしれない。

 

 

 

 

《同刻》

 

 

 

 

「くっ……?!」

 

 

屋上の外へ殴り飛ばされた。

その事実に驚愕しながらも、シールズドラモンは一緒に飛ばされた璃麻の体を抱き、綺麗に地面に着地する。璃麻は少しの間、まるで金魚のように口をパクつかせながら呆然としていたが、すぐに我に返ったらしい。見る限りでは幸い、怪我はしていないようだ。

どうも、路地裏に着地したらしい。周りに人気は全く無く、埃っぽい風がひゅうひゅうと吹いているだけ。

 

 

「ちっくしょぉっ……何ですか一体!!!」

 

 

シールズドラモンの腕の中から降りた璃麻は、辺りを見回しながら思わず声を上げる。その手には、やはり銃が握られていた。未だに硝煙を吐き、火薬の臭いを漂わす。その隣で、シールズドラモンは己のダメージを分析していた。

 

 

(右腕部中破……。これほどまでとはね)」

 

 

シールズドラモンという種類は、成熟期の中でも非常に優れた戦闘能力を秘めている。並みの同クラスデジモンの攻撃では、先ず傷一つ付かないであろう。だと言うのに、相手は易々とダメージを与えてきた。引き出される妥当な結論としては、成熟期以上のレベルか。

 

 

 

 

「ひゃっははは!敵は一人じゃねぇんだよ、ばーかっ!」

 

 

突如として響き渡る、甲高いソプラノ調の声。

璃麻が、銃を構えながら咄嗟に声を上げる。

 

 

「出て来いっ!!」

 

 

確実な気配は感じられない。

しかし、そこに存在する――――研ぎ澄まされた殺意だけは、ひしひしと感じられる。そして、その殺意に紛れ、憎悪に似たものを纏った気配が一気に押し寄せてくる。璃麻は、全身の感覚を研ぎ澄ました。数多くのデジモンと対峙してきたからこそ可能となる、第6感の活性化。

 

 

この刹那だけ――――璃麻は過去を思い出す。

家族が居た。いつも優しくて、満ち足りた愛を自分に注いでくれた母。時に厳しく、自分を強くさせてくれた父。そして……小さく、まだ弱かった自分の手をずぅっと握ってくれていた兄。

何もかもが、うまく行っていた。

あの日までは。

そう、あの日――――

 

 

月の無い、血色の夜に―――――

 

 

「…………っっっ!!!!!」

 

 

極度に研ぎ澄まされた神経が、ピンポイントで敵の居場所を捉える。捉えると同時に、銃を握る腕は撃つべき方向に向かれていた。その一瞬とも言える動作は、シールズドラモンですらも予想出来なかったらしい。

引き金を、引く。

マズル・フラッシュが、その空間を白く染め上げた。

爆裂音と共に銃口から吐き出される弾丸が、ビルの皹が入っていた窓硝子を木っ端微塵に粉砕した。

 

 

「うおっ!?」

 

 

窓の向こう側から、先ほどの声が響く。

間髪入れずに、壁か何かに衝突したのであろう弾丸は、そのまま兆弾することも無く、爆裂する。爆熱と爆風が、その近辺の窓硝子を粉々にし、更にはそれらを構成するアルミ製のフレームすらも拉げ、コンクリートの外壁に皹を入れる。

 

 

気配は、消えない。

其れを証明するかのごとく、二つの影が爆煙の中から抜け出てきた。シールズドラモンが地を蹴り、その敵影を空中で仕留めようと、大きく跳躍した。

だが―――――

 

 

「危ねぇじゃねぇの!!はっははは!!!」

 

 

「!!」

 

 

影の1つから、鞭の様なモノが飛び出す。

それは、シールズドラモンの強固な装甲に覆われた体を、易々と殴り飛ばした。打たれた部分の装甲に皹が入り、砕ける。そして、鮮血が噴出した。シールズドラモンはその結果に驚く様子は無く、吹き飛ばされた身体を捻り、ビルの壁面に足から着地する体勢をとる。

足が触れると同時、そのまま壁面を蹴る。前方に進むことは無く、シールズドラモンの身体はくるくると回転しながら、地面に落ちる。鮮やかな着地を、決めた。

 

 

「けけっ……んま、合格点なんじゃねぇの?」

 

 

ソプラノ調の、声。

今の攻撃によるダメージが大したものではない、と結果を割り出したシールズドラモンは、前方に居る二つの影を見据えて――――その時初めて、動揺を見せる。それは、璃麻も同じだった。

 

 

1つは、少年だった。

派手な服装に合わず、ヘアバンドによってたくし上げられた髪は黒く、蛇のような眼が、哄笑を浮かべながらこちら側を捉えている。こちらは、まだいい。まだ、動揺させるようなものではないのだ。

問題は、もうひとつの影。

 

 

「…………きききっ」

 

 

2本の長い蔦と、鰐の様な顎。三日月のような不気味な紅い双眸に、後頭部に間抜けに咲いた花。不吉なまでに、滑稽な姿だった。喩えるならば、それは巨大な猪籠草の様でもあった。

璃麻とシールズドラモンはその化け物―――デジモンのことを知っている。だからこそ、驚きを隠せずに居る。

少年の方が、にやけながら告げた。

 

 

「どっちなんだろーなァ?ねーちゃんのシールズドラモンが木偶の坊なのか、俺のベジーモンが強すぎるのか」

 

 

ベジーモン。その名こそが、混乱の根源。

 

 

「……くぅっ……」

 

 

璃麻が、歯軋りを立てて銃を構えなおす。しかし、それよりも早くベジーモンがその動きに対応した。璃麻が理解する間も無く、ベジーモンの触手のような蔦が驚くほど伸び、璃麻の手に持った銃を弾き飛ばす。そしてそのまま、璃麻の脇腹を無造作に殴り飛ばした。

 

 

「あっ……うぁ……!」

 

 

「璃麻!!……くはぁ!!」

 

 

璃麻が地面を転がる前に、受け止める。そのことを念頭において地を蹴ったシールズドラモンの背中を、棍棒にも見える蔦が思い切り殴り飛ばす。圧倒的で――――予想を遥かに上回る速度。シールズドラモンが、地面に激突する。やや遅れて、璃麻の体が無様に地面を転がった。

 

 

「……くそっ……こんな……!」

 

 

璃麻は血唾を吐きながら、擦り傷だらけになった身体をすぐさま起こした。追撃は無い。それから少しだけ間が開き、シールズドラモンも同じようにして立ち上がる。背中の装甲が、大きく砕けていた。

ベジーモン。彼女ら二人が知る限りでは、この種族は成熟期の中でも“ヌメモン”や“スカモン”等が集まる最弱の部類に属するデジモン。その筈、なのに。これほどまでの、攻撃力。これほどまでの、スピード。常識を、覆していた。そのことに、苛立ちが隠せない。

それを嘲笑うかのような、少年。

 

 

「街中だからなるたけ被害が広がらねぇように……技に範囲のねぇシールズドラモンってぇわけか。甘いね、そんなんじゃこの俺――――ルドラと。あの“ソロモン72柱”の一人……ラボラスモンのおっさんには勝てねぇぜ?」

 

 

「なっ―――?!」

 

 

驚愕する、璃麻。

その表情は、見る見る内に蒼褪めてゆく。

 

 

 

 

《同刻》

 

 

 

 

「アブソリュート……シザァァアアアス!!!!」

 

 

「ぐっ……あぁぁ……!!!!」

 

 

異形―――ロワの、全身から突き出した刃物。

そのままBアグモンから進化し、戦闘体勢を取ったBグレイモンに突っ込む。頑強な筋肉の鎧に覆われたBグレイモンの身体を易々と切刻む。吹き出る血の霧が、Bグレイモンを包み込んだ。そしてそのまま……ずどん、と倒れる。私がBグレイモンに向かって走り出すと、ロワは一瞬で私の目の前まで迫ってきた。

 

 

「……てめぇは動くんじゃねぇ!!!」

 

 

「っ…………!!!」

 

 

刃物の突き出た手が、そのまま私の身体を握り締める。数箇所が、貫かれた――――その事を、激痛と血の生暖かさが伝えてくれる。苦しくは無い。ただ、非常に気持ち悪い。

 

 

…………今、自分の目に映る光景が信じられない。

何か、悪い夢でも見ているのであろうか?そうであることを願いたいのだが。戦慄きながらも、ここまで冷静に物事を考えることの出来る自分が心底憎かった。体中の痛みなんて、どうでも良かった。今、目の前に広がる惨状――――其れだけを、どうしても否定したかった。

 

 

「げっはっはぁ……歯応え無ぇじゃねぇか、んん?」

 

 

血塗れで倒れているBグレイモンと―――それを踏みつける、ロワと名乗った異形。そして―――そのロワの手中で、身体を握り締められている私。体中の骨が軋んでいるのが、理解った。

Bグレイモンを、圧倒的な速度と圧倒的な攻撃力で沈めた、この異形は。今まさに、私を殺さんとその手中に力を込める。あからさまな肉を裂く音が、私の身体から聞こえてきた。喉を通り越して何かが逆上してくる。吐き出して、それが血であることに気付いた。

 

 

意識が、遠くなる。

気持ち悪い。腹が立つ。目頭が熱くなる。

そう、殺されそうになるこの刹那。私は、恐怖というモノを感じない。悔しさと、悲しさ。其れだけが胸の中を駆け巡る。そして、その意思が脳を巡り、何か手立てが無いかを考え出す。それが見つからないことなど、一目瞭然だったのだが。

 

 

「終わりだ……げはははっ、呆気ねぇなぁ」

 

 

ロワの哄笑が、脳内で跋扈する。

これで……終われるはずが無い。しかし、Bグレイモンは傷付いたままだ。進化が出来るとは思えない。

ならば、どうすればいい?

 

 

……どうすることも――――出来ない!

 

 

「あばよぉ……」

 

 

全身が、骨の髄まで悲鳴を上げる。

終わる、のか。このまま……。

薄れる意識の中で、私は――――

 

 

 

声を、聴く。

 

 

 

 

「いや、君は死なない。オレが絶対に助ける……エフェクト……『ギルモン』ッッ!!!」

 

 

「なっ……うぉおおおおお!?!?!?」

 

 

誰だろうか……若い男の人の様な鋭い声。

その直後に、何かが燃え、爆発する音。

そして最後に、ロワの絶叫。

現状を理解することも出来ないまま。

 

 

 

私の意識は、断絶された―――――

 

 

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