日暮の空には、月と星の光が輝く。

引き込まれてしまいそうなほどに、幻想的な空の彩。

涼風が、大地を優しく撫でるかのように、優しく吹く。

 

 

真っ暗闇。人気の無い、灰色のコンクリートで作られたビルとビルとビルとビルの間に出来た、僅かな空き地。四角く切り取られた上空から射す月光に照らされるのは、肉を曝け出し骨を曝け出し臓腑を曝け出し全身血濡れで轢き千切られた、“人だった”モノ。それらの散らばる、血肉臓腑骨の海。それらには、所々に焼き焦げていた。辺りに充満するのは、死体の臭いと血の臭いと焼けた肉の臭い。

 

 

そんな中で。

一人の少女と……一匹の竜型が、座り込んでいた。

偶然か、座り込んでいる場所には汚れが一切付いていない。

 

 

少女は、月を見ていた。

黒い髪には、べっとりと血が付いている。白い肌には、所々に煤が付いている。ブラウスとスカートに至っては、血や煤や泥が付きすぎている所為で、元が何色なのかすら分からない。此処まで穢れていながら、少女の身体に怪我と見られるものは1つも無い。ただ、蒼い眸が月をぼんやりと捉えていた。

 

 

少女の隣に座る竜型もまた、月を見ていた。

その雪のような白銀の体毛に覆われた身体には、一切の血が付いていない。背に生やした翼は、吹いてくる風で少しだけ揺れている。少女に寄りかかられながら、まるで犬の様に座り込み、尻尾を振っていた。その獣の眸は、少女を心配そうに捕らえている。それでも少女は、ただただ無表情で月を見ているだけだ。

 

 

「こんなところにいたのか」

 

 

背後から聞こえてくる青年と思しき声に、少女は振り返る。そして――――ほんの少しだけ、顔が明るくなった。

金髪に、真っ白なシャツを着込んだ清楚な青年。笑みでも浮かべていたら、本当に爽やかなのかもしれないが、無表情なので実際はどうなのかは解らない。どちらかと言えば、『男らしい』。そのような喩えが似合う、精悍な顔付きをしていた。

青年は、少女の隣……竜型の反対側に、どかっ、と座り込んだ。少女は青年の行動が余程嬉しいのか、青年の腕に頬擦りをし始める。青年は、ほんの僅かに少女に笑みを向けてから……空を、見上げる。少女に付いている血や煤、泥は……不思議と、青年のシャツに付くことは無い。

 

 

「空を見るのは楽しいか?」

 

 

空を見上げながら、青年がぽつり、と呟く。

少女は、閉ざされた唇を開かず……ただ、こくり、と頷く。それを聞いた青年は、少女の手をぎゅっと握り……立ち上がった。少女も少し遅れて立ち上がり、竜型も起き上がる。四脚で起き上がった竜型は、狼にも見える姿だ。

 

 

「戻ろう。此処に何時までも居ては……他のハンター達がやってくる」

 

 

少女の手を引いて、青年が歩き出す。

それに連れて少女と竜型も、足早に歩き出した。

 

 

 

後に残ったものは、無惨に散らばる骸だけ。

 

 

 

 

Re/call 〜Emerald

   第肆話 『進化』

 

 

 

 

秋の沼地というのも少し珍しくはあるが(まぁ、森の中ではしょっちゅう見られるものらしいのだけれど)、本来は寒いであろう其処が熱気に包まれているというのはこれまた珍しいことである。木が燃焼することによって出来た焦土は少し湿っており、泥上になっている。木や草がが生い茂る森の中で、焦土となってしまったその場所はまるで…………

 

 

―――――命の恵を奪われた、“死”の空間だ。

 

 

目の前の猪を睨む。煮え滾る様に胸が熱い。成る程、私は今、相当怒りが溜まっていると言う事らしい。

デジヴァイスの画面が光だし、何かの映像が浮かび上がってくる。ホログラム映像と言うヤツか。確か、何時か何処か映画でも同じような光景が展開されていたような気がする。

画像と、全く読めない文字列。そして…………頭の中に、何かが流れ込んでくるような感覚に襲われる。

 

 

「ボアモン……成熟期」

 

 

気付くと、私はそんな言葉を発していた。ボアモン…………恐らくは、今対峙している焔を纏う猪の名前で合っている。だとすると……デジヴァイスには、親切にも、映像に加え脳に直接テレパシーとかで情報を伝える図鑑機能が付いているらしい。

先ほどから下劣な笑い声を上げるボアモンを見ながら、Bアグモンは目を細めた。そして、沼地を見回す。赤黒い液体が噴いた様な……そんな、生理的嫌悪感を感じさせる『染み』があった。

 

 

「気をつけろ……美音。こいつ、人間を喰った」

 

 

胸糞悪い。いや、それ以上だ。

Bアグモンから昨日の夜、聞いた事の内の1つ。こちら側に出現したデジモンの多くは理性を失っているが、人間を捕食することによってそれを取り戻す(というよりはこの際、修復といった方が宜しいとも思うが)らしい。

般若心経はお婆様から教わっている。喰われた人は、後ほど……役不足かもしれないが、供養してあげたい。こんなことで死んでしまったのでは、あまりにも悲しすぎる。

 

 

走り、多少乱れていた呼吸を整えるのには10秒もいらなかった。ボアモンを睨みながら、相手をよく観察する。ドクグモンの時と決定的に違うのは、“頭が良い”と言うところだけか。

 

 

焔の塊、とまでは行かないものの……見事に脚、背に焔を纏っている。近づくだけでも、熱気で遣られてしまいそうだ。猪は……確か、突進すると……牛とは違い、急停止も曲がることも出来る。そして、お爺様と山へ出かけに行った時、お爺様が突進してきた猪の目の前で傘を広げて怯ませ逃がしていたことがあるのを思い出す。

正直なところ、不安はあるが……

 

 

仮定 壱:ボアモンは、人を捕食し理性を取り戻している。

仮定 弐:ボアモンは、肉食性である。

仮定 参:ボアモンは、猪の姿をしている。

仮定 肆:ボアモンは、体中に焔を纏っている。

仮定 伍:猪は突進しながら、急停止も曲がることもできる。

仮定 陸:猪は、目の前で傘を広げると怯み逃げる。

仮定 漆:Bアグモンの攻撃は火球の発射である。

仮定 捌:常識では、炎に炎で攻撃するのは逆効果である

 

以上の仮定から算出すべき結論:Bアグモンの火炎を吐く攻撃、『ベビーバーナー』は恐らく通用しない。少しは頭が良く、私を捕食する可能性も考えられる。仮定 陸に当たっては、傘などは何処にも見当たらないため……無効なモノとする。

 

 

…………これではダメだ。

統計的判断だが、根本的結論及び対処法を混ぜ合わせた融合論を求めることが最優先事項か。思考の整理をする。何、簡単なことだ。節約術に似たものだと思い込めばいいのだ。Bアグモンを、観察する。肉食の恐竜型。思考に足すべき要素を見出す。そして、辺りも見回す。結論は――――

 

 

仮定 玖:Bアグモンには、爪と牙がある。

仮定 拾:沼、つまりは水溜りがある。

 

 

対処方法:突進できないまでの距離まで接近、斬り付け・噛み付き攻撃でダメージを与える。或いは、沼に足を嵌らせ、動けなくさせる。現状において考えられる対処の融合論はこれだけだ。

 

 

これが通じるかどうかは解らないが、試してみる価値はありそうだ。Bアグモンに視線を送る。私の意図を見通したかのように、Bアグモンが頷く。どうやら私は、とても優秀なパートナーと組めているようだ。

 

 

「ぐふふっ……ぐふっ……お前らぁもぉ……喰ってやるぅぅぅぅ!!!!」

 

 

ボアモンが、まるで興奮した闘牛のように咆える。そして、次の瞬間には勢いよくこちら側に突進してくる。空気がびりびりと震えるほどの地響き。しかし、ボアモンは予想していたよりも単調な動きしかしないようだ。タイミングさえ謝らなければ、突進も充分に“避け”られる。

 

 

「!」

 

 

私とBアグモンは、タイミングを見計らって……横スレスレに避け、そのまま急停止した瞬間のボアモンの身体に自分の身体を密着させる。炎に覆われていない部分の、朱色の毛並みに覆われた身体は、予想していたよりも熱かった。しかし、手を離す程でもない。後はこのまま、Bアグモンが攻撃をすれば――――

 

 

「ごのぉぉぉ!離れろぉぉぉ!」

 

 

ボアモンが情けないような、酔っ払いのような声で叫びながら身体を乱暴に動かす。予想外、というか……思わぬ落とし穴か。密着されたらこのような行動をとるという可能性を頭の中に入れて置かなかった。私は、すぐに振り飛ばされて、少々ぬかるんだ地面に叩きつけられる。

 

 

「〜〜〜〜っ〜〜〜っっ!!」

 

 

体中を襲う、激痛。

視界が一瞬、真っ白になる。頭が割れるように痛い。喉……というか肺が一瞬、とても縮んだような感覚。呼吸が一時的に止まり、再開し始めた途端に一気に苦しさと気持ち悪さが押し寄せてきた。

 

 

「くっ……」

 

 

Bアグモンも同様だったらしい。しかし、Bアグモンは叩きつけられる事は無く、上手くバランスを取って足から着地、そのまま思い切り地面を蹴ってボアモンに急接近する。

ボアモンは、身体を乱暴に振るっていたためか、態勢が崩れていた。突進速度は速いみたいだが、それ以外に関しては中々鈍重らしい。随分と手間取っているのが、私にも見えた。

 

 

「はぁあっ!!」

 

 

Bアグモンの両腕が、交差し、そのまま一気に振るわれる。鋭利な爪は、ボアモンの脇腹にバッテン印のような切り傷を付けた。傷は意外と深いらしく、裂け口からは血飛沫が霧雨のように吹き出た。Bアグモンはそのまま、間髪入れずに口から火炎弾を放出し、傷口に叩き込む。

 

 

「ぐぎゃぁああ……!!何しやがるんだぁ……!!」

 

 

憤怒が入り混じった悲鳴。予想外だ。

工夫次第では、火炎弾でもダメージを与えることが出来るということか。ボアモンの身体を棍棒の様に振り回す攻撃を避けながら、Bアグモンは私の元まで走ろうとし――――固まる。少し焦った顔をしている。

 

 

「美音……くそっ!逃げろ!」

 

 

そう言われて動こうとし――――

私は、自分の今の状態に気が付いた。気付いた途端に激痛が走るのは人間の便利な機能なのか、はたまた不便な機能なのか。私には、よく解らない。でも……痛みに、思わず、呻き声と涙が込み上げてくる。

 

 

片腕が、血色に染まっていた。

きっと……地面に叩きつけられた時に、尖った小石やらで切れたのかもしれない。襲ってくる激痛。二の腕の表面が、焼けるように熱くて―――――灼けるように、痛い。

気持ち悪いのは……この、血に染まっている腕が“自分の腕”だからか。流れている血が、“自分の血”だからか。血は、腕を伝って……人差し指と中指の指先から、地面にしとり、しとり、と垂れていた。

 

 

「――――っ!!」

 

 

私は、学校などで皆が言う“怖い”という感情が、よく解らない。

それでも―――――“危機感”を感じることは、出来る。

立ち上がろうとした、その時だった――――。

 

 

 

 

「ダンガン……アタァァアアックゥァアア!!!!!」

 

 

ボアモンの、雄叫びにも似た―――空気を振るわせるほどの、大声。それを聞いた時―――ぞっ、と私は背中が凍りつくような感覚に襲われた。ボアモンの方から、どごん、と何かを鈍器で殴るような音が響き渡る。

 

 

「ぐっぁ……ぁぁああ!!!!」

 

 

Bアグモンの―――――叫び声。

私は……Bアグモンの姿を、探す。

一瞬、私の頬を掠って……何か、大きなものが後方へと飛んでいった。頬がすぱり、と切れ、血が流れ出る。

そんなことはどうでもいい。私は、後ろを振り返る。

 

 

Bアグモン、だった。

 

 

小さな体は、体中から血を流して、血は螺旋を描くような軌跡を描いて。まるで外野を示すかのように聳え立つ、木の一本に激突する。激しい打撃音と共に、木は半ばから折れ……少しも動けないBアグモンの頭上に、倒れ掛かってきた。

 

 

助けなければ。Bアグモンが―――――

しかし、身体は……動いてくれなかった。予想以上に……ダメージが大きいらしい。動きたくても動けないのは、金縛りに囚われた感覚にも似ていて。何よりも先に、悔しさが込み上げてくる。

木は、覆いかぶさるようにして…Bアグモンの頭上に倒れた。枝先にいくつか付いていた枯葉が、ゆらゆらと舞う。

 

 

「次はぁぁぁ……お前ぇぇぇだぁぁ……」

 

 

振り返る。不思議と――――焦りも何も無い。

ただ……怒りだけを、感じていた。

 

 

ゆっくりと歩いてくるボアモン。沼に浸かると足を持ち上げるのに一苦労するらしい。が、それでもゆっくりとゆっくりと………確実に私との距離を縮める。予測よりも脚力が強い。即ち、沼に足を浸からせて動けなくする、と言う策略は無駄だったようだ。私は……ボアモンを、精一杯に睨んだ。今の私は、生きたいとか生き延びるとか、そんなことは少しも考えていない。

Bアグモン。あんな小さな体で、頑張った。一撃しか与えられなかったけど。私が邪魔になってしまったけれど。それでも、彼は頑張って戦って……そしてやられた。

私にも、抵抗ぐらいは出来るはずだ。身体は思うように動いてくれないけれど。このまま殺されてしまうのは、甚だ不愉快さを感じてしまう。

 

 

それでも、身体は―――――

 

 

動いてくれない。

 

 

「げぇへへへ………」

 

 

ボアモンは、もう目の前まで来ていた。

顎から覗く牙が、嫌らしく白く輝く。

逃げることも、抵抗することも出来ないまま――――

 

 

「頂きまぁぁぁァあすぅぅ!!!」

 

 

 

 

《停滞》

 

 

 

 

ボアモンの必殺技……“弾丸アタック”の直撃を受け、Bアグモンは身動きを取れずに居た。更に、木に激突して倒れた木が自分に覆いかぶさる。非常に宜しくない自体であることは確かだ。

Bアグモンは、予測していたよりもダメージが大きいことを悔やんでいた。ボアモンは成熟期の中でも、パワー面では上位に入る種だ。美音に気をとられ、ボアモンの攻撃を真っ向から受けてしまった。

 

 

否、そのようなことはどうでも良くて。

枝の隙から見える、前方の光景。動けない美音に、ボアモンがゆっくりと迫っていた。不愉快な光景であり、焦燥に駆られる光景であり――――何よりも、悔しさが込み上げる光景であった。

 

 

「くっ……そぉっ………!!!」

 

 

美音……いや、人間はそう頑丈に作られてはいない。だから、自分が守り通すべきではなかったのか。それが。その筈が―――――何て有様だ。悔しさは、Bアグモンに……気力を与える。

気力があれば何とかなるであろう。そう結論付けたBアグモンは、無理やりにでも身体を動かそうとする。

掌で力いっぱい押すと、木は少しだけ浮いた。しかし、まだ足りない。力を―――更なる力を!

 

 

「動け……よぉおおおおおお!!!!!!」

 

 

咆哮する。止める為の力か。壊す為の力か。殺す為の力か。守る為の力か。それとも、救う為の力か。Bアグモンに、知る由は無い。知ったところで、無意味なものだと。直感で決め付ける。

 

 

「ぉぉぁあああああああ!!!!!!!」

 

 

Bアグモンは、もう一度咆哮した。

 

 

力は―――――

 

 

 

溢れ出した。

 

 

 

 

《覚醒》

 

 

 

 

「ぎぎゃぁぁあ!俺のぉ!俺の目がぁあぁああ!!!」

 

 

何事かと思った。ボアモンが、突如白く輝いて……じたばたと暴れだした。何が何だか分からない。一瞬だけ、私は取り乱した。すぐに平静さを取り戻して、状況を再視認する。

ボアモンが輝いていたわけではない。腰に付けた、デジヴァイスの画面が眩く光りだしていたのだ。その光に照らされたボアモンが、突如として苦しみだしていた。確かに、直視すれば視界が灼かれるかも知れない。それほどまでに眩い光。

 

 

そして、異変はまだ続いた。

デジヴァイスの画面から出ている光は、まるで梳いた髪の様に集束し、私の体の体が……自然と、背後を向く。

Bアグモンがいる場所。其処に、デジヴァイスの画面から放たれた集束している光が浴びせられる。木の枝の僅かな隙間を掻い潜って……Bアグモンに届く、デジヴァイスの光。

そして―――――

 

 

 

「Bアグモン進化……!!!Bグレイモン!!!!!」

 

 

 

聞こえてくる、Bアグモンの咆哮にも似た叫び声。デジヴァイスから放たれていた光が、唐突に止む。すると、今度は……木の内側、つまりはBアグモンの居る所から拡散性のある光が放たれる。

そして、木が――――爆散した。爆散した木は、四方八方に破片が散らばり……跡形も無くなる。Bアグモンが居るであろうその場所を見て―――私は、唖然とした。

 

 

Bアグモンの姿は、其処にはなかった。

代わりに……Bアグモンの5倍の大きさはあるであろう、頭部にツノの付いた兜を被った青い恐竜が居た。しかし、眸は……Bアグモンと変らない、戦士の眸だ。私は、さっきのBアグモンの咆哮を思い出し……思考を疾らせる。デジモンは進化する生き物、とBアグモンから昨日聞いている。疑問を昨日の話の中に割り当てると……結論は、すぐに出た。

 

 

成る程。そういう、ことか。私は全てを理解する。

目の前にいる青い恐竜――――――Bグレイモン。Bアグモンが、“進化”した姿なのだな、と。デジモンは地球上の生き物とは違って、一瞬で進化してしまうようだ。

 

 

「ごのぉぉぉぉ!!なめるんじゃねぇぇぇぇ!!!」

 

 

私は再び、背後を振り向く。まるで蛇に睨まれた蛙、といった形相のボアモンが、Bグレイモンに……物凄い勢いで、突進し始めた。恐らくは………Bアグモンを吹き飛ばした技か。

 

 

「ダンガンアタァァァァアアアック!!!!!!」

 

 

突進してくるボアモンに……Bグレイモンが、動いた。

Bグレイモンもまた、ボアモンに向かって走り出し……思いっきり、尾っぽを振るった。まるで、大木の様に太い尻尾は……ボアモンの身体を、易々と殴り飛ばす。

 

 

「ぐぬあぁぁあ!お前ぇぇぇええ!!!」

 

 

地面に叩きつけられながら、ボアモンがゆっくりと起き上がり……また、突進してくる。Bグレイモンは……その場から動かない。Bグレイモンは、思いっきり息を吸い込んだ。限界まで吸い込み上げたらしく……今度は一気に……息を、吐き出す。てっきり大きくなった火球が出るだけと思っていた私は……吐き出されるものを見て、思わず戦慄いた。

 

 

「メガァ…………バーストォォォォ!!!!!!!」

 

 

ボアモンが肉薄した瞬間に吐き出された“それ”。

喩えるならば――――爆炎、熱線、光線。激しい放出音とともに、爆発したような青白く輝く光線状の炎がBグレイモンの顎から放たれる。炎は、ボアモンを一瞬にして包み込んだ。

 

 

「ぐぉぁぁぁああああああ――――」

 

 

ボアモンの体が……途中で、爆音によって閉ざされる。その間に……炎に包まれたボアモンの肉体が、灰塵となって消滅するのが……はっきりと見えた。やがて……何事もなかったかのように、炎が消え去る。

私たちは………勝った、らしい。

 

 

「Bグレイモン………」

 

 

自分自身の顔は鏡で見なければ解らないが、私は、いつの間にか笑顔を浮かべていたらしい。Bグレイモンの名を呼ぶときの私の声は……自分でも驚くほど、明るい声だった。

気のせいかもしれないけれど。Bグレイモンが、そんな私の声を聴いて……優しげな笑みを浮かべたように見えた。そして、Bグレイモンは上空を見上げ………

 

 

 

大きく、咆哮した。

 

 


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